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図書館のつぶやき

学生アルバイト含め図書館スタッフ約10名が交替で担当する本の紹介コラム、企画展示や各種イベントのお知らせなど、もろもろのご案内を掲載しています。

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北海道教育大学附属図書館釧路館のつぶやきです。

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2016年09月20日(火)

ニッポンの編曲家

音楽モノで一冊。書名は「ニッポンのアレンジャー」と読みます。いわゆる歌謡曲やポップス(Jポップ)では、歌手は一番に注目され、その次に作詞家や作曲家に言及されることが多いですが、さらに編曲家(アレンジャー)まで取り上げられることは少ないでしょう。しかしながら、この編曲家のおかげで、歌は完成品となり、私たちの心に響いてくるものになるのです。70~80年代のヒット曲を多数取り上げながら、多くの曲がヒットするにあたって編曲家が果たした大きな役割を詳細に述べた興味深い本であります。

編曲家という字面からは、作曲家の作った曲(メロディ)に何か手を加えるという感じが浮かぶかもしれませんが、編曲とはそういう作業ではありません。本書の定義では「その曲でレコーディングされるすべての楽器のパート譜を書き、時には歌メロよりも印象的なフレーズでメロディを引き立たせる。編曲家とは、アンサンブルのイニシアチブをとり、統率する、いわば楽曲の総合監督である。」(序文)となります。どういう楽器を使うか、アコースティックでいくかエレクトリックでいくか、リズムセクションはどう作るかなどなど、ほとんどの場合そういう部分は編曲家の手によって構成されます。クラシックでいえばオーケストレーションに当たりますが、これが下手だと曲想の表現がうまくいきませんので、大変重要な要素です。そして、実はイントロも(作曲家ではなく)編曲家が作っていることが多く、印象的な例では、「異邦人」(久保田早紀)は天才と称される萩田光雄の手になるものです。これはもうイントロだけで人の耳を奪ってしまいますね。

本書は、萩田光雄や星勝、船山基紀、武部聡志ら著名なアレンジャーへの直接のインタビュー(すでに亡くなった大村雅朗らについては縁故のあった人へのインタビュー)で基本は構成され、アレンジャーの本音が聞け素顔が浮かび上がるところがとても興味深いです。なお、曲のイメージとご本人のイメージが違っているのも面白く、井上陽水のアレンジャーとしてあのロマンティックなサウンドを創りあげる星勝が、写真だとプロレスラー(キラー・カーン)みたいなお姿なのはなかなか笑えます。この本によると、作曲家はメロディをアレンジャーにポンと渡し(譜面がないことすらある!)、たまにちょっとした音のイメージを添えるくらい、あとはアレンジャーの音楽構想力にかかっている、というのが多いらしいです(そもそも曲名や歌詞がない場合もある!)。ストリングス(弦楽器)やブラスの使い方、コード進行など、それぞれのアレンジャーにやはり特徴があって、一見「裏方」の仕事なわけですけども、そこにまさにプロ中のプロの個性的な仕事があるわけで、大いに尊敬に値します。こういう人たちがいてその世界は成り立つのですね。大作家も編集者に何度もダメ出しされて苦労したという話は多く、文学やマンガの世界でも、実は大変にセンスや力のある編集者がいてこそすぐれた作品が生み出されていることは、みなさまご存じのとおり。近年デジタル機器の発達により打ち込み中心の音楽が増えるにつれ、こうした名アレンジャーの出番は減り、似たようなそして平凡なサウンドが増えてきたのは惜しいというべきでしょう。

さて、ところが話はこれで終わらない。実は上記の名アレンジャーたちも、伴奏のすべての譜面をきちっと書くわけではない。アレンジャーは音楽を「よく心得た」スタジオミュージシャンに「こんな感じで」とかちょっと指示するだけであとはその人に任せてしまう、というケースが多いこともこの本でわかります。本書の後半は、ギターの吉川忠英やドラムの島村英二をはじめ、有名なスタジオミュージシャンが登場します。実際に音を出しているこのミュージシャンたちもまたプロ中のプロであり、テクニックとインスピレーションで音楽をリアルなものに創ってゆく存在なわけです。ここにもまた偉い人たちがいます。とはいえ実はもっとさかのぼれば、歌手や曲のイメージ・コンセプトを構想し、作詞作曲者を選び、アレンジャーを決め、スタジオミュージシャンも揃え、要は全てを「天上から」支配するプロデューサーという存在がいるのですね。これらが全て揃ってこそ質の高いものや売れるものが出来上がるというわけであります。

なお、一方、本書からは「音楽業界残酷物語」が見えてくるのも事実です。才能がある人ほど数多くの仕事を掛け持ちして疲れすり
減ってゆく、そんな様相も見えてきます。短い時間に録音しなければならないので十分な準備もできない、あまりにたくさん録音しすぎて自分がどれを演奏したかも憶えていない、演奏したのにプロデューサーの気に入らず削除されるなどなど、不本意なことは多々あるようです。ヴァイオリンの葉加瀬太郎が音大の学生時代にテレビの歌番組の伴奏オケのバイトをよくしたそうなのですが、「収入は多かったけれども地獄だった」と何かのインタビューで語っていました。共感を寄せられない音楽やルーティーンでしかない音符のなぞり、その辛さはなんとなく想像できます。

本書は、70~80年代に日本の歌謡曲・ポップスをよく聴いた人には何とも懐かしい内容が多くて、もちろんそれだけでも大変に興味深いのですが、しかしそれ以上に、注目はされないけれどもとても重要な仕事があるということ、そしてそれぞれの分野に要求される才能や個性があるということ、みなが力を出し合ってこそ仕事は完成するのだということ、といったいろいろなことが見えてきます。表に出る主役は実は主役ではない、そんな印象さえも持ってしまいますね。昔じゃなくて、今の音楽好きの若い人にもいろいろ参考になる話が多いとも思います。ややマニアックですが、面白い本ですよ。
そうそう、そういえばこの本はまだ図書館に入ってなかったな。購入を希望します。

(釧路館長 竹内康浩)

ニッポンの編曲家

川瀬泰雄・吉田格・梶田昌史・田淵浩久著
『ニッポンの編曲家』
DU BOOKS  2016年3月4日